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迫りくる危機 PAGE4

last update Last Updated: 2025-08-06 09:57:00

 ――初任給をもらった翌日の朝。真弥さんに会社まで送ってもらって出社したわたしの元へ、いつもと様子の違う佳奈ちゃんが駆け寄ってきた。

「お……、おはよ、麻衣」

「おはよ、佳奈ちゃん。どうしたの? 何か顔色悪いよ?」

「うん。実はさぁ、昨日あたし残業で。給料日だったから帰りにすぐ近くのコンビニでお金下ろしたのね」

「……うん」

「そしたらさ、店出たところで変な男に絡まれて。そいつ、何か麻衣のことボロカスに言ってたのよ。『あの女は男をとっかえひっかえしてる魔性の女だ』とか、『アイツは俺の女なのに』とかって。何か怖かった」

「わたしのことを……」

 佳奈ちゃんの話を聞いていると、わたしには「もしかしたら」と思い当たる人物が一人。

「ね、佳奈ちゃん。その人って、身長が百八十ないくらいで痩せてて、わたしたちと同じくらいの年齢に見えなかった? 何か目がギョロッとしてて」

「そうそう! そんな感じの男だった。……麻衣、まさかその男って」

「多分だけど、わたしのストーカー。宮坂くんで間違いないと思う。実はわたしも、昨日銀行のATMでお金下ろしてるところを外からじーっと見られてたんだって。ボディーガードをしてくれてる真弥さんって女の子が言ってた」

「えーーっ? じーっと見られてるだけっていうのも不気味だよね……」

「うん……。このこと、入江くんとか桐島主任にも話しておいた方がいいかな?」

「そうだね。桐島さんに話しておけば、自然と会長のお耳にも入るだろうしね。あたしもそうした方がいいと思うな」

 主任と会長にこの話が伝われば、お二人から真弥さんと内田さんにも伝わるだろうから。直接危害を加えられたわけじゃないけれど、危機がすぐそこまで迫ってきているということになるので、真弥さんの仕事もわたしの送迎だけというわけにもいかなくなるだろう。

「……そういえば、あのSNSの書き込みについては何か分かったの?」

「ううん、まだ時間かかってるみたい。小坂リョウジの時は有名人だったから早かったんだと思うけど、今回は相手が一般人で、しかも本名じゃないからね。特定するのに時間かかるみたいなんだよね」

「ふーん、そういうもんなんだ? 早く分かってくれたら麻衣も安心できるのにね」

「うん……。でも、わたしは調べてもらってる立場だし、早くしてなんて催促できないよ」

「う~ん、それもそっか……。でもさ、麻衣に
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